なぜ手放せないか

万年筆は美しい。だが、二週間ほったらかせばインクは固まり、機内の気圧でインクを吐き、雨に濡れた紙の上では無力だ。取材という現場は、そんな繊細さを許してくれない。この油性ボールペンは、いつ握っても、どんな紙にも、ためらいなく文字を吐き出す。書くことに集中させてくれる道具こそ、書き手の最高の相棒だ。

蘊蓄をひとつ

かつて油性ボールペンは「重くてかすれる」の代名詞だった。それを、低粘度インクという発明がひっくり返した。油性の耐久性のまま、水性のなめらかさを手に入れたのである。技術の進歩とは、たいてい派手な新製品ではなく、こういう地味な一本の中に宿っている。

旅での相棒ぶり

屋台の油じみたカウンターでも、揺れる列車の中でも、半分眠りながらでも書ける。失くしても惜しくない、というのも旅の道具の立派な美徳だ。実際、私はこれまでに数十本を世界中に置き忘れてきた。