これまでのご購読への御礼と、これからの「畔蒜ジョージの萬國道中膝栗毛」について

2025.02.24 ・ 東京 ・ 逸話・裏話

これまでのご購読への御礼と、これからの「畔蒜ジョージの萬國道中膝栗毛」について

夜更けに紙をめくる音というものが、昔から好きだった。

紙をめくる音のこと

夜更けに紙をめくる音というものが、昔から好きだった。

静かな部屋の中で、湯気の抜けかけた茶と、小さな卓上灯だけを相手にページを繰る。

紙は指先の湿度を吸い、インクはその日の気分で少し匂いが違う。

読むという行為には、どこか“旅支度”に似たところがあるように思う。

そんなことを考えながら、「萬國道中膝栗毛」という小さな冊子を刷り始めたのが、もう随分前のことである。

月に一度。

決して派手ではないが、気の向くままに街を歩き、酒を飲み、知らない土地の言葉を拾い、時にはただ海を眺めるだけの日もあった。

それを綴り続け、第百二十四號まで歩いてくることができた。

手に取ってくださった皆様には、まず何より御礼を申し上げたい。

本当にありがとうございました。

なぜ紙をやめ、ブログへ移るのか

思えば、こんな大インターネット時代に、わざわざ紙を刷っていたというのも妙な話である。

誰もが画面の中で文章を読み、指先ひとつで世界中の景色へ飛べる時代に、私はせっせと製本屋へ通い、インク代に頭を抱え、配送用の封筒を抱えて郵便局へ向かっていた。

今思えば、少々時代錯誤だったのかもしれない。

だが、どうしても紙で残したかったのである。

旅の記憶というものは、少し不便なくらいがちょうど良い。

簡単には検索できず、少し黄ばんで、珈琲の染みでもついていて、読み返すたびに当時の空気が戻ってくる。

そんな媒体が、この世から完全に消えてしまうのは、どこか惜しい気がしていた。

もっとも、時代というものは案外正直だ。

紙で本を読む人は少しずつ減り、店頭に並ぶ雑誌も薄くなった。

発行部数も以前ほど出なくなり、「続けたい」という気持ちだけではどうにもならない場面が増えてきたのである。

これは誰かが悪いわけではない。

街角の古い喫茶店が、静かに暖簾を下ろしていくのと似た話なのだと思う。

便利なものは、やはり強い。

気がつけば、人は待ち時間に空を見なくなり、電車では文庫本より先にスマートフォンを開くようになった。

エックスデーなどという言葉は少々大袈裟かもしれないが、時代の流れというものは、いつも静かに生活へ入り込んでくる。

私もまた、その流れの中で随分長く迷っていた。

紙を続けるべきか。

それとも、別の場所へ書き残していくべきか。

考えた末に辿り着いたのが、この「畔蒜ジョージの萬國道中膝栗毛」という形だったのである。

SNSのように言葉が流れ去っていく場所ではなく、もう少しゆっくりと、旅の記憶を置いておける場所。

誰かが夜更けにふと立ち寄り、古い停車場の待合室のように腰を下ろせる場所。

そんな場所を、インターネットの片隅に作ってみたかった。

もっとも、キーボードというものは不思議なもので、万年筆より速く文章を書けるくせに、時々妙に体温がない。

だからせめて、書く内容くらいは少し泥臭く、人の歩幅に近いものを残したいと思っている。

畔蒜ジョージという名前も、いつしか紙の上より検索窓の中で見かけることの方が増えてしまった。

それならそれで構わない。

ただ、どうせなら無機質な文字列ではなく、どこかの港町の潮の匂いや、深夜の食堂の湯気と一緒に思い出してもらえたらと思うのである。

エックスという言葉もまた、この妙に速い時代の中で、いつの間にかあちこちへ転がっていった。

ならばせめてこちらでは、少しくらい遠回りな文章を書いていてもいいだろう。

急がず、騒がず、歩いていく。

萬國道中膝栗毛とは、結局そういう話なのだと思う。

これからの「畔蒜ジョージの萬國道中膝栗毛」

もっとも、「移行」と言ってしまうと少し大袈裟かもしれない。

紙を嫌いになったわけではないし、今でも古本屋へ入れば長居をする。

鞄の中には相変わらず文庫本が一冊入っている。

雨の日の古書店の匂いなど、未だに抗いがたい魅力がある。

ただ、旅の書き留め方を少し変えるだけなのだ。

これからの「畔蒜ジョージの萬國道中膝栗毛」は、紙ではなく、この場所で続いていく。

SNSのように早足ではなく、誰かの注意を奪い合うような場所でもなく、深夜にふと立ち寄れる小さな停泊地のような場所として残していければと思っている。

街を歩いた話。

どこかで飲んだ酒の話。

名前も知らない食堂の湯気。

港町の湿った風。

土地の言葉の癖。

冬の電車の窓に映る、自分の顔。

そんなものを、これからも相変わらず書いていくつもりである。

第百二十四號をもって、紙媒体としての「萬國道中膝栗毛」はひとまず一区切りとなる。

発行は一時停止とさせていただくが、旅そのものが終わるわけではない。

旅人は、案外しぶとい。

場所が変わるだけで、またどこかへ歩いていくのである。

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