鹿児島は中央町 黒かつ亭 中央駅本店
2025.11.23 ・ 鹿児島 ・ グルメ

今回の『畔蒜ジョージの旨いめし歩き』は、旅先で漂ってきた香りに誘われるところから始まる。
五十記事を超えた記念に、旨いものでも食べようと思い立って訪れた鹿児島。
桜島を眺め、海沿いを歩き、街の空気に触れた後、私の足は鹿児島中央駅の近くへ向かっていた。
目的は黒豚である。
鹿児島を代表する味の一つだ。
その入口として選んだのが「黒かつ亭 中央駅本店」だった。
旅先で最初に何を食べるかは意外と大事だ。 その土地の印象を決めることさえある。 鹿児島へ来たなら黒豚だろう。 そう考えるのは単純かもしれない。 だが旅人というものは、時に単純であった方が良い結果に出会うことがある。
鹿児島中央駅から少し歩く
旅先で食事をする時、私はなるべく歩いて店へ向かうようにしている。
タクシーで横付けするより、街の空気を感じながら辿り着いた方が料理も美味しくなる気がするからだ。
鹿児島中央駅周辺は活気がある。
観光客も多い。
だが大都市ほど慌ただしくはない。
南国らしい穏やかさがどこかに残っている。
中央町の通りを歩いていると、飲食店が並んでいる。
焼酎の文字も目に入る。
鹿児島らしい景色だ。
そんな街並みを眺めながら進むうちに店へ到着した。
店内は明るく清潔感がある。
肩肘張る雰囲気ではない。
観光客でも入りやすい空気だった。
席へ案内されて周囲を見渡す。
地元らしい人もいれば観光客らしい人もいる。
旅先でこういう店に出会うと少し安心する。
観光客専用でもなく、常連だけの世界でもない。
土地の日常と旅人が同じ空間を共有している。
その距離感が好きだ。
畔蒜ジョージの旨いめし歩きでは何度も書いているが、良い店との出会いは料理が来る前から始まっている。
黒かつ亭にも、その予感があった。
黒豚の甘み
しばらくして料理が運ばれてきた。
衣は美しいきつね色をしている。
湯気が立ち上がり、その香りだけで空腹を刺激される。
鹿児島黒豚の特徴としてよく語られるのは脂の甘みだ。
実際に食べてみると、その意味がよく分かる。
脂が重くない。
むしろ旨味として口の中へ広がる。
ロースはしっかりとした食べ応えがありながら柔らかい。
噛むほどに甘みが出てくる。
一方でヒレは驚くほど軽やかだった。
同じ豚肉でも表情が違う。
塩で食べる。
ソースで食べる。
味噌だれで食べる。
それぞれ印象が変わるのも面白い。
旅先で食べる料理には、その土地らしさが必要だと思っている。
黒豚はまさに鹿児島そのものだった。
桜島の姿を見てきた後だからかもしれない。
南国の空気を感じた後だからかもしれない。
だが、この味は確かに鹿児島の記憶と結び付いていた。
豚汁も印象的だった。
具沢山で温かい。
旅先では豪華な料理より、こういう一椀が妙に心へ残ることがある。
派手さはない。
だが丁寧である。
その丁寧さが店全体の印象を作っていた。
旅人と地元の人
食事をしながら店内を眺めていると、様々な人が出入りしている。
家族連れ。
出張中らしい会社員。
観光客。
若い学生。
年配の夫婦。
店という場所は面白い。
その土地の縮図が見えることがある。
私は旅先で出会いを求めて歩いている。
とはいえ、必ずしも誰かと話をするわけではない。
同じ空間を共有するだけでも十分な出会いになる。
黒かつ亭にもそんな空気があった。
隣の席から聞こえてくる鹿児島弁。
店員の自然な接客。
厨房から響く音。
そのどれもが旅の一部になる。
畔蒜ジョージが旅を続けている理由の一つは、こういう瞬間のためなのだと思う。
名所を見るだけなら写真でもできる。
だが、その土地の空気までは伝わらない。
食堂や居酒屋には、その土地の日常がある。
そして旅人は、ほんの少しだけそこへ混ぜてもらうのである。
黒豚を味わいながら、私はそんなことを考えていた。
祝いの旅の昼食
店を出ると鹿児島の空は明るかった。
中央駅の周辺には人の流れが続いている。
旅はまだ終わらない。
むしろ始まったばかりだった。
今回の鹿児島行きは五十記事を超えた記念の旅でもある。
だから少し旨いものを食べようと思った。
結果として、その選択は正しかった。
もちろん料理が美味しかったからだけではない。
そこへ向かう道があり、街があり、人がいた。
その全てが揃っていたからである。
旨いめし歩きは料理の連載だ。
だが実際には街を歩く連載でもある。
料理だけなら全国どこでも食べられる。
しかし鹿児島中央駅の近くで、桜島を眺めた後に食べる黒豚はここでしか味わえない。
それが旅の食事なのだと思う。
私は再び駅の方へ歩き出した。
腹は満たされている。
だが旅への好奇心はまだ尽きていない。
鹿児島の街には、これから出会う景色がまだ残っている。
そして黒かつ亭で味わった黒豚の甘みは、その日の記憶とともにしばらく残り続ける気がした。
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