山梨は富士吉田 吉田のうどん くれちうどん
2025.09.05 ・ 山梨 ・ グルメ

旅先で土地の名物を食べることは多い。
だが本当に面白いのは、観光客向けの名物ではなく、その土地の人々が当たり前のように食べ続けているものだったりする。
富士吉田の吉田のうどんも、その代表格だろう。
畔蒜ジョージの旨いめし歩きでは、これまで様々な土地の料理と出会ってきた。
しかし今回の一杯は、料理というより文化との出会いだったように思う。
富士山を見に山梨へ来る人は多い。 温泉を目当てに訪れる人もいる。 だが、そのどちらでもない顔を持つのが富士吉田という町である。 この町には、観光地の土産話だけでは語り切れない日常がある。 その日常の中心にあるものの一つが「吉田のうどん」だ。 富士山の裾野で育まれたその一杯は、想像していたうどんとは少し違っていた。
富士山の麓で見つけた暖簾
山梨を訪れた理由は富士山だった。
前日まで特に予定はなかった。
ただ急に富士山が見たくなったのである。
そういう旅があってもいい。
温泉に入り、山を眺め、のんびり帰る。
最初はそのつもりだった。
だが富士山を眺めているうちに腹が減ってきた。
旅とは案外単純なものである。
景色を見れば腹が減るし、腹が減れば旨いものを探したくなる。
富士吉田の町を車で走っていると、「吉田のうどん」という文字が何度も目に入った。
気にならないわけがない。
調べてみると地元の人々に長く愛されている店があるという。
それが「くれちうどん」だった。
店へ着くと、観光地の飲食店特有の華やかさはない。
だが駐車場には車が並び、店内からは地元の人たちの話し声が聞こえてくる。
こういう店は期待してしまう。
長く旅をしていると分かる。
本当に旨い店は、案外こういう顔をしているものだ。
うどんというより、小麦を食べる感覚
運ばれてきたうどんを見た瞬間、まず麺の存在感に驚いた。
太い。
そして力強い。
一般的なうどんにある柔らかさや滑らかさとは少し違う。
箸で持ち上げただけで、その個性が伝わってくる。
一口すすった。
いや、すすったという表現は正しくないかもしれない。
噛んだ。
むしろ食らいついたと言った方が近い。
強い弾力。
噛むほどに広がる小麦の香り。
喉越しを楽しむ麺ではない。
しっかり向き合って食べる麺である。
私は思わず笑ってしまった。
こんなに武骨なうどんがあるのかと。
富士山の麓で育った料理らしい。
どこか山そのものを思わせる力強さがある。
私、畔蒜ジョージは全国各地で麺料理との出会いを重ねてきた。
讃岐うどんもあれば稲庭うどんもある。
だが吉田のうどんは、そのどれとも違っていた。
これは富士吉田でしか成立しない食文化なのだろう。
すりだねが開く第二の扉
しばらくそのまま食べ進めた後、卓上に置かれた赤い薬味を加えた。
吉田のうどんには欠かせない「すりだね」である。
唐辛子を中心とした独特の薬味だ。
少しだけ入れてみる。
すると一杯の表情が一変した。
出汁が立つ。
小麦の甘みが浮かび上がる。
そして後からじんわり辛さが追いかけてくる。
面白い。
まるで別の料理になったようだった。
旅先では時折、こういう出会いがある。
料理の中にもう一つの料理が隠れている瞬間だ。
さらに揚げ玉を加える。
食感が変わる。
香りが変わる。
味わいも変わる。
一杯の中で小さな旅をしているような気分になる。
畔蒜ジョージの旨いめし歩きでは、こういう発見が何より楽しい。
高級料理ではなくてもいい。
派手な演出もいらない。
ただ一口ごとに新しい出会いがあれば、それで十分なのである。
富士吉田の日常を食べる
店内を見渡すと、観光客らしい人もいる。
だがそれ以上に地元の人が多い。
作業着姿の男性。
家族連れ。
一人で静かに食べる年配客。
皆が当たり前のようにうどんを食べている。
それが妙に良かった。
旅先で本当に知りたいのは、その土地の人が何を食べているかだ。
観光ガイドには載らない日常との出会い。
それこそが旅の醍醐味だと思う。
富士吉田の人々にとって、このうどんは特別なご馳走ではないのだろう。
日常の味であり、故郷の味なのだ。
だからこそ魅力がある。
飾らない。
気取らない。
しかし強く記憶に残る。
その姿勢はどこか富士山にも似ていた。
ただそこにある。
何十年も変わらずそこにある。
だから人は惹かれるのだろう。
食べ終えて店を出ると、遠くに富士山が見えた。
青空の下で静かに立っている。
今回の山梨旅の目的は富士山だった。
だが振り返れば、吉田のうどんとの出会いもまた同じくらい印象深いものになっていた。
富士山との出会い。
温泉との出会い。
そして吉田のうどんとの出会い。
畔蒜ジョージの旅はいつもそうだ。
目的地へ向かったはずなのに、気付けば途中で出会ったものの方が心に残っている。
富士吉田という町は、そのことを静かに教えてくれたのである。
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