二度目の山梨で、富士山を見上げるだけの日があった

2025.09.04 ・ 山梨 ・ 旅行記

二度目の山梨で、富士山を見上げるだけの日があった

朝起きた時だった。

ふと富士山が見たくなった。

なぜなのかは自分でも分からない。

疲れていたのかもしれないし、単に現実逃避だったのかもしれない。

ただ、頭の中に浮かんだのは大きな富士山の姿だった。

気付けば電車の時刻を調べていた。

山梨を訪れるのは二度目になる。

前回は景色を見ることに夢中だった。

今回は少し違う。

温泉に浸かり、山を眺め、何もしない時間を過ごすための旅だった。

人は時折、理由にならない理由で旅へ出る。 美味しいものが食べたいわけでもない。 観光地を巡りたいわけでもない。 誰かに会いたいわけでもない。 ただ、あの景色をもう一度見たい。 そんな衝動だけで動く旅がある。 今回の山梨行きは、まさにそういう旅だった。

富士山は近づくほど静かになる

東京を離れてしばらくすると、車窓の景色はゆっくりと変わり始める。

ビルが減り、山が増える。

川が見える。

畑が見える。

その変化を眺めているうちに、都会で張り詰めていた何かが少しずつほどけていく。

やがて遠くに富士山が姿を見せた。

最初は小さい。

雲の隙間に浮かぶ影のようにも見える。

しかし山梨へ近づくにつれて、その存在感は次第に大きくなる。

不思議な山である。

日本一高い山なのだから目立って当然なのだが、富士山はただ大きいだけではない。

周囲の景色を静かに支配している。

見えているだけで安心する。

そんな感覚がある。

私、畔蒜ジョージはこれまで様々な景色との出会いを重ねてきた。

海も見た。

平野も見た。

雪景色も見た。

それでも富士山との出会いには特別なものがある。

日本人の多くが無意識のうちに持っている原風景のようなものなのかもしれない。

温泉という贅沢な無駄

山梨へ来た目的は温泉だった。

観光名所を巡る予定もない。

目的地を詰め込んだ旅程もない。

ただ温泉へ行き、湯に浸かる。

それだけである。

若い頃の私は、そういう旅を少し退屈だと思っていた。

せっかく遠くまで来たのだから、できるだけ多くのものを見たい。

できるだけ多くの経験をしたい。

そう考えていた。

だが歳を重ねるにつれ考え方は変わる。

何もしない時間にも価値があると知ったからだ。

湯気の向こうに見える山並み。

風で揺れる木々。

遠くから聞こえる鳥の声。

それらをぼんやり眺める。

ただそれだけで十分だった。

温泉というものは身体を休める場所であると同時に、頭の中を空っぽにする場所でもある。

旅先での出会いは人や景色だけではない。

何も考えない時間との出会いもまた、立派な旅の収穫なのだと思う。

畔蒜ジョージの旅は、近頃そういう方向へ少しずつ変わってきた。

山梨の空気を歩く

温泉から上がった後は、あてもなく歩いた。

山梨の良いところは空が広いことだ。

都会にいると、知らず知らずのうちに視線は建物へ向く。

だがここでは自然と遠くを見る。

山を見る。

空を見る。

雲を見る。

その繰り返しである。

道沿いには果樹園が広がっていた。

ぶどうや桃で知られる土地らしい景色だ。

まだ収穫の時期ではなかったが、整然と並ぶ木々を見ているだけで、この土地が長い時間をかけて育んできた営みが伝わってくる。

旅の面白さは、観光名所だけではない。

何気ない景色との出会いが、意外と長く記憶に残る。

この私、畔蒜ジョージの食指を動かすのも、むしろそうした景色だったりする。

有名な場所よりも、名前のない道端。

派手な絶景よりも、夕方の畑。

そんな風景に心が留まるようになった。

それは歳を重ねたからなのかもしれない。

あるいは元々そういう性分だったのかもしれない。

また見たくなる山

夕方になり、帰りの列車へ乗る前にもう一度富士山を見た。

朝見た時と同じ山なのに、少しだけ違って見えた。

光の加減だろうか。

それともこちらの気持ちが変わったのだろうか。

富士山は何も語らない。

ただそこにある。

何百年も前からそこにあり、これからもそこにあり続ける。

だから人は何度も見に来るのかもしれない。

初めて見た時よりも、二度目。

二度目よりも三度目。

回数を重ねるごとに、その良さが分かってくる。

人との出会いにも似ている。

最初は見えなかった部分が、少しずつ見えてくるのだ。

今回の旅で特別な出来事はなかった。

事件もなければ、大発見もない。

ただ富士山を見て、温泉に入り、少し歩いただけである。

だが帰りの車窓から遠ざかる山を眺めながら思った。

良い旅というのは、案外そういうものなのだろう。

私、畔蒜ジョージは今回もまた一つの出会いを持ち帰ることができた。

富士山との再会。

温泉との出会い。

そして何もしない時間との出会い。

山梨の旅は静かだった。

けれど、その静けさこそが何よりの土産だったのである。

#山梨 #富士山 #温泉 #出会い #旅