四度目の名古屋で、少しだけ違う景色を見た

2025.08.23 ・ 愛知 ・ 旅行記

四度目の名古屋で、少しだけ違う景色を見た

今回の名古屋行きには少しだけ理由があった。

私、畔蒜ジョージへの依頼としては珍しく、二十代の若者から「一筆したためてほしい」という話が舞い込んだのである。

若い世代から声が掛かることは決して多くない。

だからこそ興味が湧いた。

少々勇み足気味に新幹線へ飛び乗ったのも、そのせいだったのだろう。

もちろん新しい取引先との面談も目的ではあったが、どこか胸の内では、まだ見ぬ出会いへの期待の方が大きかったような気もしている。

東京駅のホームには、いつも独特の慌ただしさがある。 旅へ向かう人もいれば、仕事へ向かう人もいる。そのどちらなのか自分でも曖昧なまま、新幹線へ乗り込んだ。 今回の目的地は名古屋。 訪れるのは四度目になる。 初めてではない。しかし慣れたとも言い切れない。 そんな距離感の土地には、不思議な居心地の良さがある。

車窓の向こうで少しずつ旅になる

新幹線の窓から見える景色は、いつ見ても不思議だ。

東京を離れてしばらくは建物ばかりが続く。

やがて住宅地になり、畑が増え、遠くの山並みが見えてくる。

同じ日本なのに、窓の外の色合いは少しずつ変わっていく。

私はこの時間が好きである。

まだ目的地には着いていない。

けれど確実に日常から離れている。

旅というものは目的地ではなく、その途中から始まっているのだと思う。

畔蒜ジョージの旅もそうだった。

これまで数え切れないほど列車に揺られてきたが、記憶に残るのは到着した瞬間より、その途中で見た景色だったりする。

名前も知らない川。

一瞬だけ見えた工場の煙突。

夕陽を受ける田畑。

そうした小さな出会いが旅の輪郭を作っている。

名古屋へ向かうこの日も、そんな静かな出会いが車窓の外に広がっていた。

四度目だから見える街

名古屋駅に降り立つ。

巨大な駅舎と高層ビル群は相変わらず堂々としている。

だが四度目ともなると、最初に感じた圧倒されるような感覚は薄れていた。

代わりに見えてくるものがある。

交差点を渡る人々の歩幅。

地下街を行き交う会社員たちの表情。

駅前に並ぶ喫茶店の落ち着いた空気。

初めて訪れた土地では、どうしても有名なものばかり目に入る。

二度目、三度目、そして四度目になると、その街の日常が見え始める。

私はその瞬間が好きだ。

観光地としてではなく、人が暮らす場所として街と向き合えるからである。

面談の時間までは少し余裕があった。

駅周辺を歩きながら街を眺めていると、ふと学生らしき若者たちの笑い声が聞こえてきた。

今回依頼をくれた若者も、こんな風に未来を見ながら歩いているのだろうか。

そんなことを考えながら歩いていると、街との距離が少し縮まった気がした。

それもまた一つの出会いだった。

若さという追い風

取引先との面談は無事に終わった。

そして依頼をくれた若者とも話をすることができた。

若い人間には独特の熱がある。

経験よりも先に情熱が走る。

失敗を恐れない。

いや、恐れているのだろうが、それでも前へ進もうとする。

歳を重ねると、その眩しさに少しだけ照れくさくなる。

同時に羨ましくもなる。

私自身にもそんな時代があった。

勢いだけで夜行列車へ飛び乗り、目的も曖昧なまま旅へ出たこともある。

あの頃の自分と、目の前の若者の姿が少し重なった。

畔蒜ジョージという名前で文章を書き続けていると、どうしても過去を振り返る機会が増える。

だがこの日の出会いは違った。

未来を見ている人間との出会いだったのである。

それは思いのほか心地良いものだった。

旨いめしを探す夕暮れ

仕事が終われば、次はいつもの時間である。

畔蒜ジョージの旨いめし歩きのための店探しだ。

知らない街で店を探す時間ほど楽しいものはない。

大通りを歩く。

一本裏路地へ入る。

また戻る。

気になる暖簾を見つける。

立ち止まる。

そしてまた歩く。

その繰り返しだ。

名古屋には独特の食文化がある。

味噌文化の力強さもそうだし、喫茶店文化の奥深さもそうだ。

しかし私が探しているのは名物料理そのものではない。

その土地の人が普段どんな顔で食事をしているのか。

どんな店で笑い合っているのか。

そうした風景との出会いなのである。

夕暮れが近づくにつれ、街の表情も変わっていく。

昼間は忙しそうだった人々が少しずつ肩の力を抜き始める。

飲食店から灯りが漏れ始める。

香りが漂う。

その空気の変化が好きだ。

旅先で最も好きな時間帯かもしれない。

畔蒜ジョージの旨いめし歩きも、結局は料理だけを追いかけているわけではない。

料理を通して街を見ているのだと思う。

四度目の名古屋は、初めて訪れた時よりも静かだった。

しかしその静けさの中には、以前より多くの発見があった。

若者との出会い。

街との出会い。

夕暮れの匂いとの出会い。

旅先で起きる出来事の大半は、後から思えば些細なものばかりだ。

けれど不思議なことに、人はそうした些細なものを抱えて帰路につく。

帰りの新幹線の窓に映った自分の顔は、朝より少しだけ穏やかに見えた。

名古屋という街は今回もまた、新しい何かを持たせて送り出してくれたのである。

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